川崎ジュニア的練習法その7<バドノートの実践>5回目:最終回

<バドノートについて>
 選手とのコミュニケーションを取るために、初任の時から「バドノート」を書いていました。当初は班形式で5~6人で1冊のノートを回して記録していくようにしていました。「羽球音」と名付け、生徒から指導者へ、そしてまた生徒へ、生徒同士に声が音のように届くようになればと思って始めました。今回はその後に始めた「個人ノート」形式での実践を書きます。5回に分けて掲載します。

<バドノートについて>:5回目(最終回)
<その11:【中3】怪我>
 6月23日(月)授業中に右の肘を骨折した。完治するのに2か月以上かかると言われました。その日から彼女の苦悩の日々が始まりました。前日まで茨城県に遠征しに行っていたので、その疲れがあると自分は思っていました。病院に行ったり家庭訪問したりして、本人を励まし、次に備えました。そして最後の市総体をむかえる…その時の感動の「バドノート」です。


 7月1日:久しぶりに部活に参加しました。ゲームの時にちょうど来て、私がいない中みんな一生懸命やってて、やる気がとても感じられました。悔しい思いがすごくあるけど、私の分までみんな頑張って欲しいです。

 7月3日:今日は少しボールを握りながら見ていました。ちゃんと声出しもできました。みんな汗流して頑張っていたので、自分も早くやりたいという気持ちになりました。早くまたみんなと一緒にバトミントンやりたいです。

 7月4日:今日はボールにぎりだけでなく、できる筋トレも始めました。筋力が落ちないように毎日コツコツとやって、治った時には前と同じようにできるように努力をしてしっかりやりたいです

(しかし、自分の立場のもどかしさを感じ始めました。そして予選大会が始まりました

 7月5日:県総体の予選が始まった。今日は地区予選でみんなは早くから鶴見スポーツセンターで練習した後に、私は遅れて行ってベンチに入り応援しました。応援をしていて試合出れない自分が悔しくて、気に食わなくて、本当にみんなを見てると辛くなっちゃうけど、本当に我慢してみんなを勝たせて、関東行って関東では出ていいプレーがしたい。このままじゃ悔しい思いが残るだけだから治った後の練習で、出来なかった分取り戻せるように、体力も戻せるように、最初はきついと思うけど頑張る。

 7月13日:地区大会個人戦のダブルスは自校同士の決勝が今年初めててきて、すごかったです。後輩の1年生も自分のライバルの選手にストレートで勝てて、凄かったです。私は試合に出たくても出れなくて、でも勝つ自信はあるので、みんなが優勝したり頑張ってるところを見てると、つらいし皆がたくさん練習できて、上手くなって自分はできないので、複雑な気持ちで怪我をした自分が本当許せないて後悔してます。早くバトミントンがしたい。みんなと一緒に戦いたい。この憎しみや辛いことが、これからの血となり肉となればいいです。

(出来ることを徐々に増やしていきなさい。ランニングが出来るとよいです。今できることを全力で!怪我をした選手がその後見違えてよくなることはめずらしくありません。君もきっと)

 7月16日:みんな暑い中ランニングやステップ走を頑張っていた。途中で左利きの先輩が来てくれていろいろ教えてもらった。サーブがだんだんよく打てるようになってきた。最近たくさんの指導者さんが来てくれて、みんな練習できているのかとてもうらやましいです。早く復帰したい。

(そして市大会団体戦が始まった)

 7月19日:県総体市予選団体戦、私がいなくても優勝してくれた。嬉しいような嬉しくないような素直に喜ぶことができなかったし、何かが引っかかった。私だってみんなの前で先生やいろんな人に応援してもらいながらコートで試合がしたかった。私の気持ちなんて誰にも分からない。私なんて必要ない。怪我をしてしまったらスポーツ界では皆そう思って見ている。そんなことないって、自分に言い聞かせても、やっぱりそう思ってしまう。

(自分を責めて、チームの勝利を自分のこととして、とらえることが出来ずにいました)

 7月21日:県総体予選市個人戦、去年取った優勝カップを返還した。私が返還したかった。そしてもう1回取って来たかった。後輩は先生の100回目の優勝を勝ち取った。前から自分が100回目の優勝すると決めていたのに、試合に出ていればそれができていたと思う。熱があったのに頑張って応援した。ダブルスは3位だったけど、とても良い試合をしていた。途中1-11 だったけど15点まで行って、すごい気持ちが強かったと思う。みんなは自分が練習してる間にあんなに強くなっていたんだと思いました。本当はお祝いの焼肉なんて行きたくなかった。自分が優勝したわけではないのに自分のプライドが許せなかった。
(勝負は積み重ねです。怪我するまであなたが頑張ってきた結果の延長線上に今があるのです)

 7月24日:今日から医者と相談してランニングとかもやり始めた。まだちょっと走ったけど疲れちゃう。ちゃんと元のように体力を戻して、まだ走れたらいいなと思いました。1年生のコートで半面シングルに混ぜてもらって5人中2人に左手で勝った。勝てそうな試合ばっかりだったけで、まだラケットの面にまっすぐしっかり当てられなくて、まっすぐ振ってるはずなのに、切ってしまって変な方向へ飛んで負けてしまった。レギュラーは強化練習会に行った。自分は屈辱の残留。残留での練習はつまんない。自分がどうにかなってしまいそうだ 。

(自分は彼女をベンチに市・県・関東大会と入れました。外すことはしませんでした。彼女がそこにいてつらいことは分かっていましたが、きっとみんなの力になると思い、そうしました)

 7月28日:県総体団体決勝戦、メダルを決めた時に小田原の学校と当たって、次に横浜の学校が勝ってくると思ったけど、湘南の学校が上がってきてやっぱり県大会が何が起こるかわからないと思った。1Dが強くなっていて、中学始めなのに二人とも上手で凄いなと思った。試合に勝って決勝進出になった時涙が出てしまった。正直私なしで県の準優勝できてしまった。だから私なんかいらないんじゃないかと思ってしまい、私なんて必要ないと自分でそう思ってしまった。でも優勝できなかったのは自分がいなかったからじゃないかとも思った。強化リーグで私がいた時は優勝校に1回も負けたことなんかなかった。出てたら優勝できたんじゃないかと思って、とても悔しい複雑な気持ちだった。それに素直に喜べなくて、メダルも自分の力で取ったメダルじゃないから、いらないと思ってしまった。

(このような感想を書いてきたので、とても心配になりました。あたなが怪我をして1番ショックだったのは当然ですが、仲間や保護者、顧問も今後のことに、とても心配になったと伝えました。あたなをせめる人はいないこと。怪我をした後もあなたが必死にリハビリしたり、練習を再開したりした姿が、仲間や他の人をどんなに勇気づけて、練習に集中できたのか分からないと伝えました。誰一人として諦めなかった。それはあなたも同じだった。今ここで諦めたら、これまで頑張ってきたことが意味がなくなると、みんなが思い、一致団結した勝利だったのだと伝えました)

 7月29日:県大会個人戦決勝、結果見て、もし自分が出ていたら絶対関東に行けると思いました。団体も出たら団体も個人でも関東にでられた。メダルも2個取れた。本当に悔しい。シングルスでも自分は2位の人に1回勝ったことあると思うと、なんか自分がもっと頑張ってシングルスやっていたら、行けたのにと思ってしまった。やっぱり最後の夏は紙一重だから、後は気持ち次第なんだなと思った。絶対高校でもバトミントンやって、インターハイに出てやる。

   8月5日:関東大会初日、今日から右手でやっと打ち始めました。最初は全然感覚なくて、空振りばっかりだったけど、だんだん当たるようになってきました。関東大会1回戦目は群馬の学校で初めて勝てました。
 関東大会に出ることが目標だったけど、残念ながら間に合わなかった。これまで一度も関東勝利をしたことなくて、去年もできなかったのに今年は私が出てなくても、関東勝利をしてベスト16になったのが、とても悔しかったです。


(悔しさは残りますが、大会が終わると徐々に次の目標が見え始めてきました)

 夏休みの感想:今年の夏は今までで一番最悪な夏休みでした。骨折してしまい夏の大会に出れず、ずっとベンチで応援していてとてもつらかったです。正直、市大会優勝して、県大会準優勝して関東大会勝利できて、自分がいなくてもこんなに良い結果を残してくれただから、正直私なんて必要な居場所がなくなってしまったように思えて悔しくて悔しくてたまらなかった。もし私が試合に出ていたら、優勝できたのかなとも思ってしまう。
 大切に夏休みの練習時間だってろくにできず、病院とかで忙しく過ごしていました。そう思うと今まで何をしてきたんだろう、自分は何のためにこの学校に来たのか分からなくなってしまいました。いつも夜みんなが見てないところ泣いていました。みんなが残した結果を喜んでる姿、その記念で撮ってる写真を見るだけで、胸が張り裂けそうだった。本当はメダルなんていらない。自分で取ったメダルじゃないから壊したい気持ちがあった。あんなに今まで頑張ってきたのに、本当に悔しい悔いが残った。そんな時間を過ごした夏でした。早く全て忘れてしまいたい。
 先生が前にノートに書いた、怪我をした選手がそれを乗り越えて、見違えるほど良くなることは珍しくありません。という言葉に少し勇気をもらいました。怪我が完治したら、今までの分を取り返すくらい一生懸命練習をやって、みんなよりももっともっと上手くなる。今回起きた出来事がバネになって次につながるといいです。
 高校でも頑張る!私はバトミントンがやっぱり大好きです。
(その気持ちが大切です!今後いっぱい練習してください。今、この地の底から這い上がれ!)

 秋市総体に向けて:私は今まだダブルスやってるけど、9月にはバリバリできるようにして、シングルスで必ず一本取れる、チームに貢献できるようにしたいです。夏に出れなかった分、秋の大会はいい試合をして、みんなが注目してくれる試合をして活躍したいです。絶対優勝する!優勝しかない!市総体の優勝旗を自分で返還して、また自分が取ってくる!今までやってきたことが意味があると信じて最高のプレーをして、最後はうれし涙で終わらせたい。

(まずは速い動きを作ること。走り込みとフットワークを必ずしてください。そうすれば必ず怪我した前よりも強い君がそこに居るはずです。あせらず毎日を過ごしましょう。結果がついてくると信じて活動しよう。「思考は行動を伴って現実化する」君ならできる!必ずできる!信じてます)

<その12:【中3】市総体優勝3連覇達成!>



3年:市総体3連覇
 
 10月4日:市総体決勝戦、 3年最後の大会が始まってしまいました。昨日はなかなか眠れませんでした。朝体育館で練習した時、少し肘の痛みがあり大丈夫かな思ったりもしました。1回戦目に相手校の2Sの人とやって、最初はいい感じで持って行けたのですが、1セット目ラウンド側をすごく狙われて、クリアーが飛ばないと感じていたし、肘も痛いし一回戦目だし、無理してクリアーはやめようと思ってドロップを打ったら、ネットにかかってしまった。その繰り返してで競ってしまっ18対20でしたが、心に余裕があったので焦らず落ち着いて冷静にプレーが出でき、20対20まで行って、ファイナルに行かずに済みました。 2回戦目は打ち切りでした。
 決勝戦はやっぱりライバル校が上がってきました。先生は私を3Sで出してくれました。その意味もちゃんと分かっていました。だから2対2になって自分が勝つか負けるかで勝利が決まる時、夏の悔しさを晴らすために、一生残る最高の思い出にするために、絶対勝つという気持ちがすごく湧いてきました。その試合出だしがあまり良くなく、3点差がずっと縮まりませんでした。得意のカットとかしたいけど、それでミスをしてどんどん点数を離されるされるのも嫌だったので、つないでつないでラリーをしてチャンスを決めていきました。ギリギリで追い越して11点を先に取ることが出来てとりあえず良かったです。
 この試合もラウンドをよく狙われて、見逃してもがたくさんあった。「ラウンド来るって!」分かって速く入れたのもあった。相手がアウトしてくれた球もあり助かった。スマッシュも全然打てなくてドロップやカット、クリアーでの試合だったけど、よく勝てたと思った。速く動けて前をついたりプッシュもできた。
 2セット目の後半は得意のカットとかで、何点か点数を決められた。最後は①相手のプッシュをぎりぎり前で返して、それを相手がヘアピンで返してきて、下がろうとしていたのが見えたので、②奥に打つふりをして前に落としたら、③チャンス球が上がってきて、最後スマッシュ決められて、最高の良い形で終われたのがすごく嬉しくてたまらなかったです。みんなも喜んで、一緒に泣いてパレードもして、この日はきっと忘れられない一日になったと思います。いろんな人に褒め言葉をかけてもらい、応援してもらい、すごく嬉しかったです。先生ありがとうございました!

①プッシュレシーブ

②奥に打つと見せかけてヘアピン

③スマッシュが決まる!

勝利の瞬間!
<その13:【中3】3年間のまとめ> 
3年間の感想
 今日で最後の部活です。無限ダッシュや色々やって楽しかった。交代フリーも優勝して最後の部活として良い思い出となりました。
 引き継ぎでは1年生の頃からあっという間だったと感じました。まだもう少し部活をしていたいと思いました。きっと土日とか毎日部活だったのに、今になってしまい勉強しなくちゃいけないんだと実感しました。私は怪我ばかりで練習量が他の人と比べて少ないし、わざわざこの学校に来たのに夏の大会に出れなくて、本当に残念でした。でも地元の中学じゃなくて、ここにに来れて先生と出会えたから今の自分があるのだと思います。この学校のバトミントン部は最高でした。
 先生からの言葉で今年のMVPはあなたですと言われて、涙がこぼれそうになった。すごく嬉しくてたまらなかった。もっともっと先生に教えてもらうことが、たくさんあるのにとても寂しいです。私は高校でもバトミントンを続けようと思います。先生に教わったことや、「名言」「言葉をかけていただいた」ことはすべて間違っていなかった。高校でもそれを常に頭に入れながら、もっともっと強くなって先生に褒めてもらいたいです。まずは肘を完全に治してから、また部活に参加させてください。まだ書きたいことは山ほどあるけど、肘が痛いので終わりますありがとうございました。

(君は嬉しいときはその顔になり、辛いときは厳しい顔になります。だからとても指導しやすかった。何を感じ、思っているのかよく分かりました。君に最後を託せてよかったです。とても濃かった1年間ですた。いつも君のそばにいてバドミントンを指導できたことが嬉しかったです。3年間であなたはとても成長したと思います。ありがとう)

 最後まで読んでいただきありがとうございました!今後の選手への力となればと思い本人・保護者の同意を得て、公開しました。赤字はノートへの自分の記述およびその時期の様子を書いています。ぜひ感想を練習会等でお聞かせください。今、怪我に苦しんでいる人、なかなか実力が向上しないと思っている人、さまざまな困難に立ち向かっている人など、ぜひ前を見て頑張ってください。by組長